脱脂粉乳って何だ?
乳牛から搾ったミルク(生乳)のうち、クリーム・バターなどの脂肪分や水分を除き、粉末状にした乳製品です。スキムミルクといえばイメージしやすいかもしれません。タンパク質などの栄養素に加え、ミルクの豊かな風味を備えているため、ヨーグルトを中心に加工食品の原料として重宝されています。この脱脂粉乳は、乳製品の需要と供給の調整弁の役割も果たしています。生乳はそのままでは腐敗しやすいため、需給緩和の際には保存の利く脱脂粉乳やバターに加工することで、廃棄される生乳の発生を防いでいます。
コロナで過剰在庫
その脱脂粉乳はここ数年、過剰在庫が問題となっています。2020年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、需給バランスが大きく崩れたことが要因です。具体的には、学校給食牛乳の供給停止やインバウンド需要の喪失などが重なり、行き場を失った生乳が脱脂粉乳に形を変え、乳業メーカーや流通事業者の倉庫に積み上がりました。脱脂粉乳の主要仕向け先であるヨーグルト需要の足踏みも在庫の増加に拍車をかけました。
農水省の統計によると、国内の脱脂粉乳の在庫量は、コロナ以前の2019年末に6万9300㌧だったのが、2022年5月末には過去最高水準の10万4200㌧に達しました。直近の在庫は適正水準まで減っていますが、これは酪農家が生乳生産を抑制したり、生産者団体や乳業メーカーが資金を出し合って、特別対策(脱脂粉乳の飼料転用など)を講じ続けているからです。特別対策をストップすれば在庫は再び増加に転じてしまうでしょう。
脱脂粉乳在庫が増えるとなぜ困る?
脱脂粉乳の過剰在庫は、様々な弊害を引き起こします。最も大きいのは、酪農生産基盤の弱体化につながることです。今回の過剰在庫を巡っては、前述の通り、北海道を中心に全国の酪農家が乳牛頭数を減らすなど、生乳生産の抑制を強いられました。酪農家にとって、生乳は最大の収入源です。円安などの影響で、酪農経営に必要なあらゆるコストが高騰している現在の情勢下、思うように生乳が生産できない状況が続いたことで、廃業の加速につながってしまいました。北海道をはじめとした酪農専業地帯で酪農家の戸数減少が続くと、地域経済やコミュニティーの維持にも支障をきたしかねません。酪農の衰退は、暮らしに直結した問題といえます。
脱脂粉乳の需要創出がカギ
脱脂粉乳の過剰在庫問題。最も有効な解決方法は、新たな活用方法を生み出し、需要を開拓することです。乳業メーカーの間では、脱脂粉乳を使用した菓子や育児用粉乳の新商品開発に力を入れる動きが活発化しています。
新たな活用方法は、食品分野に限りません。先述の通り、脱脂粉乳は多様な栄養素を含み、様々な可能性を秘めています。生活用品などにも用途を広げ、暮らしの中に役立てていくことが、需給と酪農経営の安定、ひいては地域社会の安定につながるのです。
寄稿:株式会社 酪農乳業速報 編集部(2024年6月)